GOTH 名言格言セリフ

乙一の小説 第3回本格ミステリ大賞受賞作

 

「私は、この事件のことをニュースで見るのが好きなの」
「どうして?」
「異常な事件だからよ」

 

私にも、その表情のつくりかたを教えてくれる?

 

森野は黒い色のものしか身につけなかった。直毛の長い髪の毛から靴の先まで暗黒に包まれている。
反対に肌はこれまでに僕が見ただれよりも白く、手は陶器でできているようだった。
左目の下に小さなホクロがあり、それはピエロの顔に描かれた模様のように、彼女へ魔術的な雰囲気を与えていた。

 

最近のあの子、服装も以前に比べて明るくなったし、男ができたんだと確信していたの

 

ひどいめに会ったわ。
もうこの店にはこないことにする。

 

彼女みたいな染めていない黒くて長い髪の毛って、最近、めずらしいんじゃないか?

 

「私にも、その表情のつくりかたを教えてくれる?」
教室で放課後、はじめて森野が僕に話しかけてきたとき、彼女はそんなことを言った。
懐はたいてい、だれかと話をするときは微笑みを絶やさなかった。
しかし、内心ではまったくの無表情であることを、森野はなぜか気づいていたらしい。だれにも見破られなかった演技を、彼女の嗅覚はかぎとったのだ。
それ以来、僕たちはお互いに話し相手を得た。それは友人と呼べない冷たい関係だったかもしれない。しかし、彼女と応対するときだけ、僕は演技をせず思ったことをそのまま顔表面の皮膚に伝えることができた。したがって僕の額の筋肉は休憩時間を得たわけである。
それはつまり、みんなにひた隠しにしていた僕の心の無表情さや非人間的な部分を、森野は心地よい無関心さで許したということだった。

 

僕が森野の手を欲しいと思ったのは、自,殺しようとしたことを示すリス.トカットの美しい傷跡が手首に残っていたからだ。

 

彼女は死,体を発見するたびに、青い顔で家へ帰ってくる。それから熱を出して、一週間は寝こむ。
「なんで私ばっかり……」
うなされながら泣く。

 

……コウくんは、もう家に帰ることはできません

 

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「警察署に、所々赤いマークのついた市内地図のポスターが貼ってありますよね」
「死.亡事故が起きた個所を表しているものですか……?」
「その通りです、よくご存知ですね。僕以外にそのことを知っている人がいるとは思いませんでした。
僕は、赤いマークのついている場所を歩いて、人の死んだ場所に立つことが趣味なのです。
命の失われた場所に左右の足をそろえて立ち、靴底でアスファルトの表面を確かめる……。今回ここにきたのも、その延長です。
事件のあった場所を眺めるのが好きで、もしかすると、例えば、何かの理由で現場に戻ってきた犯人に会えるかもしれないでしょう」

 

「それでは、あなたはなぜ、あの子を埋めていたのですか……?」
「……まるで、わからないのです。埋めたくて、埋めてしまいました」

 

いいですか、彼は、自ら望んだのです。それについてあなたは気に病む必要はない。
助け出そうとしても彼は拒否するでしょう。しかし世間には、あなたがやったと説明してください。
ここには何も証拠を残していきませんから、たとえ佐伯さんがどのようなことを証言しても、あなたの他に僕がいたなどとだれも信じませんよ

 

両親は姉の遺体を見て以来、口数が少なくなっていた。感情の抜け落ちた顔で、世間話をすることなくテレビを見ていることが多くなった。バラエティ番組にチャンネルを合わせていても、笑い声あげることもなく、楽しそうな笑みを浮かべることなく、静かに見ているだけなのだ。
両親は、一生この先、このままなのかもしれない。二人を見ていると、そう思うことがあった。
もはやこの先、どんな幸せなことが起こっても心から楽しめないものを背負ってしまったような、そんな顔を二人はしていた。

 

よく聞いて……。私は、伝言を残すことを許されたの……。
どんなことでもいいから、今、一番、言いたいことをマイクに話せって……。ただし、だれか一人だけに向けて……。
そう言われたとき、咄嗟にあなたの顔が浮かんできて、言っておかなければいけないことが、たくさんあることに気付いたわ……。
不思議ね、赤木さんではなくて、あなたへの言葉だけが浮かんでくる……。

 

僕は、そういうふうに生まれついていました。あの子ほど小さかったときは自覚していませんでしたが、小学校に入った時はもう、自分が他人と違うことに気づいていました。
人を殺す、という宿命についてのことです。僕には、そうとしか思えません。
まるで、吸血鬼が人間の血を吸わなければいけないように、僕は人を殺さなければいけなかった。あらかじめそのような運命を定められて生まれてきたようです。

 

僕は、死というものを、『失われること』だととらえています……。
死の瞬間、その人と、その周期にあるものすべての関係が断たれる……。好きだった人や、執着していたものとのつながりが消える……。
太陽や風、暗闇や沈黙とも、もう会えなくなる……。喜び、悲しみ、幸福、絶望、それらと自分との間にあった関係性の一切は失われる……。
夏海さん、あなたがここに来るとき、どのような決断を下したのか、僕には手にとるようにわかりますよ……。

 

私も、姉と喧嘩中で……。いえ、少し違うけど……。とにかく、おめでとうってあなたに言いたかったの。ただそれだけ

 

神山君は私と正反対だと思うわ……
最初あなたは、私に似ていると思ったの。姉さんと同じ雰囲気を持っていたから。でも、違う。私たちは似ていない……
神山君はときどき、心が空っぽのまま笑っているような気がするの。気を悪くしたらごめんなさい……、
私の知っているあなたと、みんなと楽しそうに振舞っているあなたが、とても違うからそう感じるだけなのかもしれないけど……。
私はあなたが、ときどきすごく憐れに思えるの……
言っておくけど私は逆よ……

 

言われなくても知っている

 

目の前を過ぎる人の流れに、彼女は目を向ける。右に行く人もいれば、左に行く人もいた。
正確に彼女が何を見ているのかはわからなかった。ただ、僕たちの前を、大勢の人間が歩いているだけだった。
彼女が口を開き、静かに言った。
「夏海さんのこと、私は本当に良かったと思っているの。それに、うらやましかった……」
僕の手を借りないいつもの立ち姿に、彼女は戻っていた。
僕たちは別れの挨拶もしないまま、その場所で反対方向に歩き出した。

 

私たちは、死ぬことについてよく考えた。死んだらどこへ行くのか。どうなってしまうのか。
そのことに、すごく惹かれたの。でも、夕よりも私のほうが、死の知識に豊富で、残酷な子供だったと思う……

 

九年間、みんなにだまっていたのは辛かったろう、森野夕

 

「私は、姉を死なせまいと支えていた。力はなかったけれど、姉を後ろから抱きとめて……。
でも姉はわめき声をあげてはかりで……、暴れる姉の踵が、何度も私のおなかを蹴り飛ばしたわ……。
姉は私に、しっかりしなさいこのぐずって……
その言葉を聞いた途端、姉を助けようとしていた私の腕から力が抜けていって……
やがて力が抜けきったように、ゆっくりと姉のつま先は空中で動きを止めたのよ……」

 

最初に私の名前を呼ぶのは、あなたなんじゃないかと思っていたの……

 

ねえ、私は姉さんを憎んでなんかいなかった……。ときどきひどいことをされたけど、それでも姉さんは、かけがえのない存在だったのよ……。

 

僕は鞄を片手に持って、帰ることにする。
教室を出る前、彼女の席のそばを通りすぎるとき、僕は夕を一度、振りかえった。椅子に浅く腰掛けた彼女は、両足を伸ばして前の席まで突き出している。両手を胸の上で組んでおり、首に巻きつけた赤い紐は、両端を教室の床に垂らしている。
やわらかく瞼をおろし、睫毛の陰が薄く目の下に落ちている。頬には産毛があり、兎の背中のようだった。傾いた太陽に照らされて産毛が輝き、光を纏ったように見える。涙が頬の上を伝って、顎先から制服に落ちた。
僕は彼女を一人で残し、教室の扉を静かに閉めた。

 

ブログ管理人のコメント
ライトノベルと一般小説の中間的な作風で人気になった乙一の小説の中でも、ブログ管理人が一番好きな小説です。ドライな文章なのに心の琴線に触れる素敵な文章です。犯罪者を誘う特殊な雰囲気をまとう森野夜が好き。

 

GOTH 名言格言名文文章『GOTH (ゴス)は、乙一の小説である。

本作を2冊に分けた文庫本『GOTH 夜の章』(角川文庫:「暗黒系」「犬」「記憶」を収録)、『GOTH 僕の章』(角川文庫:「リス,トカット事件」「土」「声」を収録)、さらに番外編が収録されている『GOTH モリノヨル』(写真:新津保健秀)が発売されている。ライトノベル雑誌『ザ・スニーカー』に掲載されていたが(イラスト:緒方剛志)、ライトノベルとして発売されず、一般小説として発売されたという変則的な経緯を持つ。第3回本格ミステリ大賞受賞作。

高校生の「僕」と森野夜は人間の持つ暗黒面に強く惹かれる。そんな二人は毎回、奇妙な巡りあいで猟奇的な事件に関わっていくことになる。

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